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大阪地方裁判所 昭和44年(ワ)3279号 判決

原告 木村靖夫

右訴訟代理人弁護士 木村保男

同 的場悠紀

同 川村俊雄

同 坂本正寿

被告 株式会社境ビル

右代表者代表取締役 境英輔

右訴訟代理人弁護士 小倉武雄

同 青野正勝

同 密門光昭

同 鈴木純雄

同 山崎吉恭

主文

一、被告より原告に対する大阪法務局所属公証人安田慶嗣作成五万一、五八二号建物賃貸借契約公正証書および同坪井三郎作成三万一、二七六号更新等に関する契約公正証書に基づく強制執行は、これを許さない。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

三、本件につき当裁判所が昭和四四年六月一九日になした強制執行停止決定を認可する。

四、前項に限り、仮に執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

一、被告と原告との間に、原告主張の安田公正証書および坪井公正証書が各存在すること、右安田公正証書には、被告が前記訴外和田久太郎に対し、別紙目録記載建物(ただし、三階は六畳室および三畳室)を、賃貸借期間昭和三八年一一月一日から昭和四〇年一〇月三一日まで二年間、賃料一か月一階室二〇万円、二階室一〇万円、三階の二室は無償使用とし、毎月末日までにその月分を支払う約定で賃貸し、原告は、右契約に基づく債務につき連帯保証した旨の記載があること、また右坪井公正証書には、右賃貸借契約(ただし、三階室は全部と変更)につき、賃貸借期間昭和四〇年一一月一日から昭和四二年一〇月三一日まで二年間、賃料一か月一階室二〇万円、二階室一〇万円、三階室六万円と各変更して更新し、原告は、右契約に基づく債務につき更に連帯保証した旨の各記載があること、両公正証書には、金銭債務不履行のときは強制執行を認諾した旨の記載があることは、いずれも当事者間に争いがない。

二、そして被告が、右両公正証書に基づき、右訴外和田久太郎の昭和四三年一二月分の内二三万円の延滞賃料および昭和四四年一月分から同年五月分までの延滞賃料合計二〇三万円につき、原告に対し請求権があると主張し、強制執行に及んだことは、当事者間に争いがない。

右被告主張の延滞賃料請求権が、右両公正証書記載の賃貸借期限の昭和四二年一〇月三一日を経過した後のものであることは、主張自体から明らかである。

三、被告は、本件賃貸借においては、当初から賃貸借の更新が特約されており、かつ、更新前の賃貸借と更新後の賃貸借とは全く同一性を有するから、更新前の賃貸借について作成された本件両公正証書は、更新後の賃貸借についても債務名義としての効力を有すると主張する。

なるほど、いずれも成立に争いのない乙一、二号証(本件各公正証書)に原告および被告代表者各本人尋問の結果を合わせ考えると、本件両公正証書には、「両者協議のうえ、賃貸借期間を更新することができる。以後これに準ずる。」旨記載されていること、前記のとおり、昭和四二年一〇月三一日を期限とする本件賃貸借は、その当時当事者から異議の申立、更新拒絶の通知あるいは解約の申入等がなされず、借家法または民法の規定に従って実体法上更新されたものであることがいずれも認められ、この認定に反する証拠はない。

しかし、賃貸借の更新とは、更新時に前賃貸借契約と同一条件の新たな賃貸借契約が成立するもので、更新後の賃貸借契約は、更新前の賃貸借契約とは別個の契約であると解すべきである。

したがって、更新後の賃貸借契約に基づく賃料債権は、更新前の賃貸借契約から生じたものということはできない。

そして債務名義そのものは、一定の請求権を証明し、これにつき執行力を認められるものであるから、その執行力の対象たる請求権の内容およびその限界は、専らその債務名義の記載ないし表示を基準として定められるべきものといわなければならない。

そうしてみると、更新前の賃貸借契約について作成された本件安田および坪井両公正証書は、更新後の賃貸借契約上の賃料債権については、原告に対する関係において、債務名義としての効力を有しないものといわなければならない。

よって、被告の抗弁は、その他の点を判断するまでもなく、採用するに由ないところである。

四、はたしてそうであるとすれば、本件両公正証書が更新後の賃貸借契約上の請求権である昭和四三年一二月分以降の延滞賃料債権につき債務名義としての効力を有しないことを理由として、原告が、被告に対し、その執行力の排除を求める本件請求は、理由があるといわなければならない。

よって、原告の本訴請求を正当として認容し、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条、強制執行停止決定の認可およびその仮執行の宣言については同法五六〇条、 五四五条、 五四八条をそれぞれ適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 小湊亥之助)

〈以下省略〉

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